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Microsoft 365 Copilotの登場:技術解説と従来型Chatbotの活用方法の模索

2023年8月19日

こんにちは。


今や、仕事をするうえで必ずと言ってもいいほど使っているOfficeアプリ。
これらにあのChatGPTによるAIアシスタントが搭載されるとなれば、私たち人間の業務負荷がどれほど改善されるのか、その可能性は計り知れません。

本記事に記載の内容は2023年8月時点のものであり、あくまで個人の見解になりますことご注意ください。

Microsoft 365 Copilotについて

Microsoft 365 Copilotとは

Microsoft 365 Copilotは、Microsoft 365(Outlook,Teams,PowerPointやExcel等)に組み込まれ、文書やメールなどのコンテンツを生成するためのAIアシスタントです。ユーザーが入力したキーワードから関連する内容や表現を提案してくれるだけでなく、ユーザーの文体や用途に合わせて、適切なトーンやレベルでコンテンツを生成します。

何と言っても最大のメリットとしては、Microsoft製品との連携性が高いことでしょう。
以下に何ができるか具体的に記載があります。

Microsoft 365 Copilotの前提条件

  • Microsoft 365 Business Standard以上のサブスクリプションを所有していること

Microsoft 365 E3、E5、Business Standard、およびBusiness Premiumをご利用のお客様を対象に、広範な利用が可能になった時点で、1ユーザーあたり月額30ドルで提供されます。

AIのさらなる野望 - Bing Chat EnterpriseとMicrosoft 365 Copilotの価格を発表
  • Microsoft 365 Apps for enterpriseの展開
    Microsoft 365 Copilotは、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、TeamsなどのMicrosoft 365 Appsとシームレスに統合されます。したがって最新のOffice機能の恩恵を受けられるMicrosoft 365 Appsの展開は行っておくようにしましょう。
  • OneDrive for Businessの展開
    Microsoft 365 Copilotが提供する機能やサポートを利用して作成または編集したドキュメントやファイルを保存、共有する場合に利用します。Microsoft 365 Copilot機能を最大限に発揮するために利用できる状態にしておきましょう。
  • 新しい Outlook for Windowsの利用
    Microsoft 365 CopilotとOutlookをシームレスに統合するためには、現在プレビュー段階の新しいOutlook for Windowsが必要となるようです。

Microsoft 365 Copilotのアーキテクチャ

Microsoft 365 Copilotは、セマンティックインデックス(Semantic Index)と大規模言語モデル(LLM)を使用してユーザーのクエリを解釈し、関連性の高い情報やアクションを提供します。さらに、Microsoft Graphを通じて、組織内のデータやリソースに安全にアクセスし、ユーザーのニーズに合わせた情報を取得することができます。

セマンティックインデックス(Semantic Index)

ユーザーと企業のデータのマップであり、関係性や重要なつながりを特定します。Copilot SystemとMicrosoft Graphと連携して、Copilotのプロンプトから適切かつ実用的な回答を得るために必要な機能のようです。
つまり、このセマンティックインデックス機能は、チャットボットがキーワード検索に基づいてすべての結果を吐き出すのではなく、ユーザーが要求した正しいデータを見つけて取得するのに重要な機能となります。

大規模言語モデル(LLM)

LLMとは、大量のテキストデータを学習して、自然言語の生成や理解を行うことができる人工知能の技術です。
Microsoft 365 Copilotは、LLMの一種である生成事前学習トランスフォーマー(GPT)モデルの組み合わせを使用しています。
そしてOpenAI社が開発したGPTモデルの最新版であるGPT-4を搭載したAzure OpenAIサービスを処理に使用しています。
Azure OpenAIサービスは、OpenAIが一般公開しているサービスとは異なり、MicrosoftとOpenAI社の独占的なパートナーシップによってMicrosoft社が提供しているサービスです。
Azure OpenAIサービスは、セキュリティやコンプライアンスの要件に対応しており、Microsoft 365 Copilotの品質や信頼性を高めています。

Microsoft Graph

組織内の膨大なデータとインテリジェンスを効果的に活用するための鍵となるツールです
さまざまなMicrosoft 365サービスのデータに安全かつ統合的に接続するためのAPIを提供することで、ユーザーは必要な情報をタイムリーに取得し、より迅速な意思決定を行うことができます。開発者は、Microsoft Graphを使用してMicrosoft 365サービスの組織全体のデータに迅速にアクセスすることができます。

また、Microsoft Graphコネクタを活用することで外部サービス(BoxやSalesforce、SAPやオンプレミスのDB等)のデータを取得することもできます。

Microsoft Search

Microsoft Searchは、作業中に必要な情報やリソースを迅速に見つけるためのツールです。ユーザー、ファイル、サイトなどを検索し、その結果は使用しているアプリのコンテキストに基づいて表示されます。例えば、Outlookでの検索はメールを、SharePointでの検索はサイトやファイルを優先して表示します。この検索は個別に最適化されており、Microsoft Graphの洞察を利用して各ユーザーに関連性の高い結果を提供します。従ってユーザーごとに最適な結果を表示するため、同じキーワードを検索しても、ユーザーごとに異なる結果が表示されることがあります。

処理の流れ、仕組み

もう少し細かな処理の流れを記載したフロー図です。
ユーザーからのプロンプトを受け取ると2段階で処理を行い、回答の最適化を行っているようです。

前処理

  • Microsoft 365 Copilotは、Microsoft Graph APIを通じて、ユーザーのプロファイルや文書履歴などの情報を取得。ユーザーの過去の活動や関心を理解する。
  • より関連性の高い回答や情報を提供するため、セマンティック インデックスを利用して入力された内容の意味や関係性を理解する。
  • Microsoft 365 Copilotは、取得した情報と入力された内容から、コンテンツ生成のパラメータを決定する。
    ※パラメータには、トピック、トーン、レベルなどが含まれる。
  • Microsoft 365 Copilotは、パラメータに基づいて、大規模言語モデル (LLM) にクエリを送信します。

後処理

  • LLMは、クエリに対して関連する内容や表現を応答する
  • Microsoft 365 Copilotは、LLMからの応答を受け取り、再度Microsoft Graphとセマンティック インデックスを利用して、応答の内容をさらに最適化する。これには、ユーザーの組織内のデータや文脈を考慮した情報の追加や調整を行う。
  • Microsoft 365 Copilotは、最適化された内容や表現を整形して、ユーザーにレスポンスする。

懸念、考慮事項について

データのアクセスと保護

Microsoft 365 Copilotのアクセス範囲について

Microsoft 365 Copilotがアクセスするリソースは、他Microsoft 365サービスで設計したアクセス許可(アクセス権限)に基づいて各ユーザーがアクセスできる範囲のデータのみを取り扱います。 つまり、一般社員が役員しかアクセスできないデータに対してMicrosoft 365 Copilotの支援を受けることはできないということです。 これは、検索処理の一機能であるセマンティック インデックスが、ユーザー ID ベースのアクセスを優先し、現在のユーザーがアクセスを許可されているコンテンツにのみアクセスを行って処理するためです。

Microsoft Purview Information Protection (MPIP または AIP) ラベルによるデータ保護

Microsoft Purview Information Protection (MPIP または AIP) ラベルを使用して保護されたデータについては適用されたラベルの保護ポリシーに従事します。 ただし、以下の文言からCopilotが新しい文章や情報を生成する際、生成されたその全体の文書やコンテンツ自体に新たにラベルが継続して付与されるわけではないと読み取れます。

Microsoft Purview Information Protection (MPIP または AIP) ラベルを使用して保護されたデータは、これらのポリシーに従って引き続き保護されます。 Copilot で生成されたコンテンツは現在、ソースから MPIP ラベルを継承していませんが、Copilot は元のソースを引用しています。これにより、ラベルが保持されます。

Microsoft 365 Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ - Deploy Office | Microsoft Learn

Microsoft 365 Copilotのデータ所在地と主権に関するポリシー

おさらいですが、Microsoft 365を利用している各テナント内の顧客データはAzure Active Directoryの認証とロールベースのアクセス制御を用いて論理的に分離されています。これにより、他のテナントのデータへのアクセスは制限されています。詳細はMicrosoft 365の分離コントロールを参照。
したがって他テナントの顧客にデータが漏洩しないように対策は行われています。

では、今回のMicrosoft 365 Copilotについて気になるところはCopilotが取得などによって記憶したデータが外部に持ち出させることはないのかという点です。
前提として、Microsoft 365 CopilotのLLM呼び出しは、基本的にはリージョン内の最も近いデータセンターにルーティングされます。
ただし、使用率が高い時期には、他の地域のデータセンターにもリクエストをルーティングするようですが、この際のLLM呼び出しは、顧客データをメモリ内で処理し、結果をユーザーが所属するホームリージョンに返します。つまり一時的に処理がひっ迫してLLMの呼び出しが外部リージョンであっても、顧客のコンテンツデータはユーザーのホームリージョンの外部に保存されることはないため、漏洩対策は施されていると見受けられます。

顧客データの使用

LLMを利用する上で多くの利用者が懸念すべき事項として、自社データがLLMのトレーニングに活用されるのではないかということが一番にあると思います。Microsoft 365 Copilotは顧客のデータをトレーニングに活用することはないと明言されているのでこの点は導入時のネタとして認識しておきましょう。

生成されるコンテンツの正確性

Copilotは、AI技術を用いてコンテンツを生成しますが、それは必ずしも正確であるとは限りません。確かに人間よりもインターネット上のさまざまな情報源から学習していますが、その情報源の信頼性や最新性は100%保証されているわけではありません。したがって生成されたコンテンツは、参考程度に留めておくべきであり、最終的には自身の責任でコンテンツを確認し、必要に応じて修正を行いましょう。

今後、AIを活用した従来の社内Chatbotはどうなるのか

Copilot登場による見解/考察

社内Chatbotは、社員が業務に関する質問や相談をするために使われるAIアシスタントです。特に今年に入ってAI時代に突入し、ChatGPT、ChatGPTが組み込まれたAzureOpenAIが早々にリリースされ、様々な企業がAzureOpenAIを使ってChatBotなどのAIアシスタント製品を開発および提供してきました。
上記のようなChatBotは社内ドキュメントやデータベースを参照することで、組織内独自のデータ(社内規則や規程、機密情報や開発knowledge等)の情報を引用した形で適切な回答を行うことが可能です。

しかし、Microsoft 365 Copilotの登場により、これらの社内Chatbotの役割が大きく変わる可能性が出てきました。Copilotは、Microsoft 365のアプリケーションとシームレスに連携していることで、例えば、ユーザーが書いている文書やメールに関連する情報を提供したり、ユーザーが要求したコンテンツを生成して提案することが可能です。よって、よりユーザーの日常の業務をサポートするための情報提供や作業支援を行います。このCopilotの高度な機能と、Microsoft 365との深い連携は、従来の社内Chatbotが持っていた機能を超えるものとなっている気がします。

さらに、Microsoft 365 CopilotはセマンティックインデックスやMicrosoft Graphとの連携を通じて、Microsoft 365の組織内のデータはもちろん、Microsoft Graph カスタムコネクタを使えばMicrosoft 365以外のサードパーティ製品からデータインポートすることができるため、幅広く組織内のデータをより高度に解析し、ユーザーに適切な情報やサポートを提供することができます。これにより、従来の社内Chatbotが持っていた「質問応答型」の役割から、より「業務サポート型」の役割へとシフトする可能性が高まってきました。

メモ:
Microsoft Graph カスタムコネクタを使えばMicrosoft 365以外のサードパーティ製品からデータインポートすることが可能

社内Chatbotの役割の再考

Microsoft 365 Copilotの存在はもちろん、Bing Chat EnterpriseやWindows Copilotといった「Copilot」ブランドのAIアシスタントも既に市場に登場しています。これらのサービスが相互に連携することで、利用者に対して顕著な価値をもたらすことが期待され、その可能性は今後も拡大していくでしょう。

特に、Microsoft 365 CopilotはMicrosoft 365ユーザーにとって、強力なサポートツールとしての位置づけが強まり、間もなく欠かせないサービスとなることが予見されます。

この背景を鑑みると、社内Chatbotの開発を進める企業は、Copilotとの差別化や、プラグインを通じた連携など、その役割や方向性を再定義する必要があるかもしれません。

まとめ

Microsoft 365 Copilotの登場によって、従来の社内Chatbotの役割や価値が変化しつつあります。Microsoft 365 Copilotの高度な機能とシームレスな連携能力を考慮すると、Azure Open AIを使ったChatbot構築を提供している企業はChatbotの戦略的位置づけを再評価する必要があるかもしれません。今後のAI技術の動向に注目しながら、常に変化を受け入れ、最適な戦略を検討していく必要があります。

  • この記事を書いた人
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神内 惇一郎 (Junichiro Jinnai)

新しい事を考えて企画し、挑戦することが自身の原動力です 前職ではMicrosoft 365とMicrosoft Azureの設計導入や自動化などのDX推進を担当していました。 最近はAIや機械学習を用いた製品開発/新規事業企画と技術支援に注力しております。

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